子どもの時、友達の間で怖い話が流行っていたのですが、その時に印象に残っている話の一つに「猫また」があります。
長生きした猫が、化け猫になって尻尾が割れるというもので、わたしはこの話を信じてしまい、一時期「みゅう」(初代愛猫)のことを怖がってしまっていました。
「いつか、みゅうの尻尾がわれてしまうのか」と、最初はびくびくしながら眺めていました。
そんなある日、尻尾がどう割れてしまうのかが気になり、とうとうみゅうの尻尾を掴んでみたところ、意外と固かったことにびっくり。
みゅうには嫌がられて引っかかれてしまい、散々な目に合ってしまいました。
何で尻尾が固いのか疑問に思い図鑑で調べたら、尻尾にも骨があることを知り、あの固さに納得したという思い出があります。
もふもふとしていて、かわいらしい動きをする尻尾は、猫のチャームポイントの一つ。
実はそれだけでなく、健康を維持するためにとても重要な役割を果たしていました。
そして、尻尾にも骨があるので、踏んだり引っ張ったりすると、骨折してしまうということも。
今回は、そんな尻尾について、しっかりとお伝えします。
尻尾にも骨、筋肉、神経があります
猫の尻尾は「尾椎(びつい)」「筋肉」「神経」からできています。
意外とよく分かっていない尻尾の秘密について知るために、まずは尻尾の仕組みについてお話します。
尾椎によって尻尾は支えられてる
猫の尻尾には20個程度の尾椎という骨があり、先にいくほど細くなっています。
尾椎同士はゆるく繋がっているから、しなやかに動くことが可能です。
尻尾の短い猫の尾椎はこれよりも少なく、個体によって大きく差があります。
尻尾を動かす筋肉は6種類
この図は尻尾の断面図(イメージ)です。
尾椎の周りには6種類の筋肉が左右に1つずつついており、それぞれの筋肉の働きによって前後左右に動かしています。
①内背側仙尾筋(ないはいそくせんびきん)
尻尾からみて背中側についている筋肉です。
左右同時に収縮させることで尻尾が上に上がり、片方が収縮すると斜め上に上がります。
②外背側仙尾筋(がいはいそくせんびきん)
内背側仙尾筋(①)と尾横突間筋(③)の間にあり、それぞれの筋肉と連動することで、尻尾を斜め上や横に動かしたり、どちらかが損傷した時に機能を補う役割があります。
③尾横突間筋(びおうとっかんきん)
各尾椎にあるとても小さな筋肉で、尻尾を横に曲げるときに使われます。
尻尾をくねくねと曲げることができるのも、この部分が動いているからです。
④直腸尾筋(ちょくちょうびきん)
尻尾から見てお腹側に付いている筋肉で、収縮されると尻尾が下に引きこまれます。
⑤内腹側仙尾筋(ないふくそくせんびきん)
直腸尾筋(④)と外腹側仙尾筋(⑥)の間にあり、それぞれの筋肉と連動することで、尻尾を斜め下や横に動かしています。
どちらかが損傷を受けた時は、その機能を補う役割があります。
⑥外腹側仙尾筋(がいふくそくせんびきん)
この筋肉が左右同時に収縮すると、尻尾が真下にさがり、片方だけ収縮すると、斜め下方に下がります。
「尾骨神経」によって尻尾は動く
尻尾には「尾骨神経」という運動神経があり、この働きによって尻尾は動いています。
この尾骨神経は下半身にある排せつや歩行に関わる重要な神経と部分的に繋がっています。
尻尾が引っ張られたり踏まれたりすると、他の神経にも影響が出てしまい、歩行困難や排せつ障害、下半身の麻痺を引き起こす可能性もあります。
尻尾の役割
チャームポイントとして存在しているだけでなく、尻尾も他の部分と同じようにしっかりとした構造になっていました。
そのため、尻尾には様々な役割を持っています。
身体のバランスを保つ
動いているときに身体のバランスとるのは尻尾の重要な役割の一つ。
ジャンプをする時には尻尾を回したり、飛び降りる時には高く上げるなど、高い場所への上り下りをするときは尻尾でバランスをとっています。
狭い場所や複雑に入り組んだ道などを通る際にも、尻尾を振りながらバランスを保っているのです。
保温効果
寒い日に、猫は体を丸くして眠っている姿をよく見かけると思いますが、猫にとって、尻尾は寒い日のマフラー代わりになります。
先日、ゆねが丸まって寝ている姿を見て娘が「ゆねって、マフラーを巻いたまま寝てて、暖かそうだなぁ」と言っていましたが、本当にその通り。
わたしたちは上着を着たりすることが自由にできますが、猫にとって、尻尾は最高の防寒具になっています。
マーキング
猫には臭腺と呼ばれるそれぞれの猫固有のにおいが分泌される部位があり、尻尾にもその臭腺があります。
自分の尻尾を対象に巻きつけることで、自分の縄張りや所有権を主張していると言われています。
感情表現
「猫が尻尾の毛を逆立てているときは怒っている」、「ゆったりと尻尾を揺らしているときは機嫌がいい」など、猫の機嫌を尻尾から感じている人は多いのではないでしょうか。
実際、猫の感情は尻尾と繋がっているというのは有名な話です。
尻尾を大きくゆっくりと振る
猫がリラックスしている時によく見られる動きです。ご機嫌で、安心している状態だと言えます。
尻尾を垂直に立てる
愛猫が尻尾を立てながら自分に向かってすり寄ってきた場合、その人のことを保護者と思い、甘えてきてくれています。
また、猫同士の挨拶だったり、「うれしい」「遊んで」という感情表現でもあります。
この状態が見られた時は、相手に対して友好的に思っていて、機嫌のよい証拠です。
尻尾を下げる
飼い主さんに怒られて落ち込んでしまった、体調が悪い、気分が優れないという理由で、寝猫に元気がない時に見られます。
この時はあまり構いすぎないほうがいいですが、体調不良が隠れている場合もあるので、しっかりと様子を見てあげましょう。
尻尾を足の間に巻き込む
尻尾を足の間に巻き込み、身体の下で丸めているときは、恐怖心や警戒心が高まっています。
ケンカで負けてしまったときや見知らぬ人に突然触られた時など、何か怖いことがあったのかもしれません。
ストレスがあまりかからないように、安心させてあげましょう。
尻尾の毛を逆立てる
威嚇するとき、もしくは恐怖を感じているときに見られ、この時は全身の毛が逆立つことも多いです。
これは少しでも自分を大きく見せて優位に立とうとしています。
尻尾を小さく早く振る
なにか不安がある、落ち着かない気分の時には尻尾を根元から小刻みにパタパタと尻尾を振ります。
ご機嫌斜めの猫をなでようとしたり、乱暴な抱き方をしたときなどに見られます。
この時は、ストレスを感じてイライラしているので、あまり構いすぎずにそっとしてあげた方がいいでしょう。
また、獲物を狙っているサインでもあるため、近づくと攻撃されてしまう可能性もあるので気を付けてください。
尻尾の骨折には要注意
猫の飼い主として、様々な病気やケガについてご存知の方も多いと思いますが、尻尾のトラブルについてはあまり知らないという人もいるかもしれません。
尻尾にも骨や神経が存在していますので、骨折や神経障害というトラブルもあります。
たかが尻尾と思い、放っておくことは大変危険です。
ここでは骨折と神経障害について詳しくお話します。
骨折について
骨折とは、骨が持つ強度(固さ)以上に強い力が外から加えられたことによって、骨にひびが入ったり、折れたり、砕けたりした状態のことです。
猫の骨折は、交通事故や高いところからの落下によって起こることが多く、骨盤(腰の骨)、大腿骨(太ももの骨)、足のすねの骨が骨折することが多いのですが、尾椎の骨折についても同様のことが言えます。
原因
骨折の原因は様々なものがありますが、尻尾の骨折について起こりうる原因についてお話していきます。
①お尻から落下した
猫は「立ち直り反射」という反射があるため、ある程度高いところからでも上手に着地することができます。
しかし、とても高い場所からの落下や、低い場所でもお尻から落ちてしまった場合、この反射では補いきれず、尻もちをつき、尻尾に衝撃を与えてしまうことになります。
この場合は尻尾だけでなく、他の骨(特に骨盤)も骨折している可能性がありますので、動物病院で診てもらうことをお勧めします。
②交通事故
外に出る猫は交通事故の危険性が常にあります。
車にひかれてしまうだけでなく、車が動き出したときに尻尾だけ巻き込まれてしまったり、踏まれたりしたときも骨折の可能性は高くなります。
友人Rさんのお宅の猫ちゃんは、日中に車の上で日向ぼっこをするみたいなのですが、先日車の上にいないからと車に乗り込んだ時に車の下から猫ちゃんが走って出ていったことがあったそうです。
「もう少しでひいてしまうところだった」とRさんはヒヤッとした話をしてくれました。
猫はよく車の上で日向ぼっこをしているイメージがありそうですが、実は車の下に隠れていることも多いのです。
そのため、猫がいることに気づかずに車を動かしてしまい、事故につながるケースは決して珍しくありません。
自宅に車があり、その周辺に猫ちゃんがよく行くご家庭には要注意のお話ですね。
③ドア、人に尻尾を踏まれる
自宅でドアを勢いよく閉めた時に、猫の尻尾を挟んでしまったり、足元にいる猫に気付かずに、猫の尻尾を踏んでしまうということはよくあります。
また、子どもがいる家庭では、子どもが猫の尻尾を踏んでしまったというトラブルはきっと経験があるのではないでしょうか。
以前、我が家でも娘と息子がケンカをした時(理由は忘れましたが)、足元にゆねがいるのに気付かず、掴みかかろうとした勢いで息子がゆねの尻尾を思いっきり踏んでしまったということがありました。
ドアに少し隙間が空くように、ドアストッパーなどを付けておくといいかもしれません。
家事や仕事に集中していると、足元まで注意するというのはなかなか難しいかもしれませんが、愛猫の所在について少しでも気にかけるようにし、誤って踏んでしまわないように気を付けるようにしましょう。
④尻尾を引っ張られる
こちらは特に、小さいお子様がいる家庭では注意してください。
まだ動物の扱いになれていない子どもが、遊び感覚で尻尾を掴んだり持ち上げたりして、骨折につながるという事故もあります。
症状
骨折の場合、歩くときに足を引きずったり、腫れたり、痛がって攻撃的になることもあります。
尻尾の骨折の場合も同じような症状が見られますが、それ以外にも気を付けなければいけない部分があります。
尻尾にある尾骨神経は尻尾の付け根から伸びています。
そのため、付け根に近い部位の骨折では神経障害の可能性があります。
この場合、排せつ障害や歩行困難が症状として現れます。
他にも以下の症状があります。これらの症状が見られた時は、早めに動物病院に相談しましょう。
<尻尾の骨折の症状>
- 尻尾が曲がっている
- 尻尾を触ると痛がる
- 尻尾が動かず、触っても反応しない
- 後ろ足の動きがおかしい
- 自力で排尿できず、膀胱に尿が溜まる
- 自力で排便できない or 便を垂れ流す
- 元気や食欲がない
治療方法
尻尾という部分はどのように治療するのか、また治療費はどうなるのかというのは気になる部分だと思います。
治療方法についても、注意点を含めてご紹介します。
①患部の固定
骨折の治療と言えば、患部の固定が基本です。
尻尾にももちろん適応されますが、よく動かす部位であること、トイレの時に汚れやすいこと、そして猫が嫌がってしまうことから、固定するのがとても難しい部分です。
実際に治療の際に固定するかどうかは、傷の具合や骨折の場所によって決めることが多く、必ずしも固定するわけではないそうです。
②排せつ(排尿、排便)の補助
神経障害によって、自力での排せつができなくなった時、そのまま放置してしまったら命に直結します。そのため、排尿・排便の補助が必要になります。
下腹部を圧迫して排尿の補助をしたり、尿道にカテーテル(細い管)を挿入して、排尿を補助します。
また、排便については下剤を使用して便を出しやすくしたり、直腸を圧迫して排便を促す方法もあります。
③尻尾の切断(断尾)
猫が自力で尻尾を挙げることができない場合や、壊死(細胞が死んで腐ってしまうこと)がみられた場合、尻尾を切断を検討することもあります。
これは、尻尾が排尿・排便の妨げになり不衛生になる、感覚がないために外傷や骨折を生じやすくなるといったことを予防するためです。
しかし、尻尾の感覚や運動能力は数か月以内に戻ることもあるため、あまり早い段階での手術は推奨されていません。
猫が安全に暮らせる環境が大切
尻尾の骨折についての対策は、愛猫が安全に暮らせる環境かどうかにかかっているといっても過言ではありません。
最近では室内飼いが推奨されていますが、これは交通事故や高いところからの落下事故を防ぐという意味では有効な手段と言えます。
家の中での注意点は、ドアに尻尾を挟んでしまわないようにストッパーを付けることも必要になってくるかもしれません。
飼い主さんがうっかり尻尾を踏んでしまうのを防ぐ方法は、足元を確認するくせをつけるようにしましょう。
小さな子どもがいる家庭では、子どもが猫の尻尾を引っ張ってしまわないように注意しなくてはいけません。
お子さんによく話をして理解してもらうというのも大事ですが、それでも面白がってついつい尻尾を引っ張ってしまう可能性はあります。
この場合は、家にお子さんと猫だけという環境にしないというのも一つの対策です。
<尻尾の骨折を防ぐために>
- 完全室内飼いを検討する(屋外に出さない)
- ドアにストッパーをつける
- 家事をする際、足元に猫がいないか注意する
- 小さな子どもがいる場合、猫とふたりきりにしないようにする
まとめ
猫の尻尾は可愛いだけでなく、猫にとっては重要な役割をもっており、そのためとても繊細な構造をしています。
そのため、ちょっと乱暴に扱ってしまうことで取り返しのつかないことになってしまうこともあります。
ここで、今回の記事をまとめます。
- 尻尾にも骨、筋肉、神経が存在している。
- 尻尾にある神経は下半身の重要な神経と結びついている。
- 尻尾の役割には体のバランスを保つ、保温効果、マーキング、感情表現がある。
- 重要な神経との結びつきがあるため、損傷すると歩行障害や排せつ障害などが引き起こる可能性がある。
- 尻尾のトラブルを防ぐためには、猫が安全に暮らせる環境を整えることが大切。
尻尾のトラブルは誰の家でも起こる可能性はありますが、ちょっと注意することで防ぐことができるものがほとんどです。
尻尾は身体の大事な一部。
愛猫の頭の先から尻尾の先までしっかりと愛情を注いであげてくださいね。