その日は、必ず訪れます。
いつも当たり前のようにそばに居て、時にあなたを頼り、喜ばせ、困らせながらも、たくさんの幸せをくれた愛猫の死。
猫の寿命は約15年です。わたしたち人間よりも、はるかに短い猫の寿命。その死に直面することは仕方のないことです。
わたしも、2匹の愛猫の死を経験しています。1匹目は、わたしが小さかったとき。世話は両親に任せっきりで、病気で死んでしまいました。
「わたしにも、できることがあったんじゃないか」「もっと、こうしてあげれば…」と後悔が残っています。
そんな経験から、2匹目の猫にはわたしができることは全てやりました。すると、不思議と後悔は残りませんでした。
でも、死を迎えてふと、思うこともあります。
自分のできることはやったつもりです。でも、言葉が違う猫の本音は分かりません。
きっと、わたしと同じように、こんなことを思う飼い主さんは、愛猫が生きていたころも「この子(猫)を幸せにしてあげたい」という愛情でいっぱいだったと思います。
そんな飼い主さんが、愛猫との別れの悲しみを乗り越えて、愛猫との思い出が幸せに感じられるようなお話をしていきたいと思います。
猫にとっての幸せとは
猫にとっての幸せとは、どんなことなのでしょうか。
- 人と暮らすことが幸せなのか
- 室内飼いが幸せなのか
猫を飼っている飼い主さんは、猫を愛するが故に、そんなことを思いますよね。その答えは、「さまざまな性格の猫」や「いろいろな考え方」があるのでとても難しいです。
猫と人間の共存の歴史
猫にとっての幸せとは何かを知るために、猫と人間の歴史についてみていきましょう。
猫と人間の共存の歴史は、農耕文化の始まり(およそ1万年前)から現在に至るまで、長きに渡ります。
これは、人間側の都合だけではなく、猫自ら選択して人間のそばにいることを選んだからなのです。
猫は人と生きるために進化している
1万年の歴史の間で、猫が人間と暮らすことで生じた進化は次の通りです。
- 社会性が生まれた
- 鳴き声が変化した
- 人になつくようになった
- 人を表情、感情を読み取れるようになった
1 社会性が生まれた
人間が農耕文化を得て、作物の貯蔵を始めると、猫は穀物を荒らすネズミを退治してくれる動物として重宝されました。
そこで、もともとは単独性だった猫が餌を求め、集まり社会性が生まれ、猫は集団生活ができるようになったんです。
社会性…集団を作ってその中で生きていこうとすること
その中で、社会的な順位を作るようにもなり、血縁のない猫同士がじゃれて遊んだり、下の位の猫が上の位のネコに向かって尻尾をあげて近づいていって、挨拶するといった猫独自のコミュニケーションも生まれてきました。
猫は安定した食料を得るために、社会性を身につけ、人のそばで生活することを選んだ。
2 鳴き声が変わった
猫の「ミャーォ」という鳴き声は、一般的に猫同士では母子間でしか使われないため、子猫しか発することができませんでした。
しかし、いまの家猫は大人となった後も、人の気を引くためのサインとして使っています。
この鳴き声は、人にとってより心地良いと感じられる音に進化し、わたしたち飼い主の心を揺さぶるのです。
さらに、猫は様々なバリエーションをもってこの「ミャー」を発することができます。
そして、人間のお母さんが赤ちゃんの泣き声の違いで要求が分かるように、猫と人の双方の学習により、意味の伝達までできるようになる、といわれています。
また、猫の「ゴロゴロ」という鳴き声は、「気持ちいい時」と「餌を要求するとき」とで周波数が異なることがわかっています。
餌を要求する際にも発せられ,要求の
「ゴロゴロ」音は,そうでない「ゴロゴロ」音より,
ヒトにとって不快で,急かされるような印象を与え
るようである(McComb, Taylor, Wilson, &
Charlton, 2009)。音響学的には,餌を要求する際の
「ゴロゴロ」音は,220~520(平均380)の音が
大きく,この周波数の音が,ヒトに上記のような印
象を与えているようである。300~600の周波数帯
は,健康な乳児の泣きにも含まれる音であり(Furlow,
1997),「ミャー」同様,ヒトの知覚バイアスに合わせ
てネコが発声を変えてきたと考えられる(McComb,
Taylor, Wilson, et al., 2009)。
出典:なぜネコは伴侶動物になりえたのか比較認知科学的観点からのネコ家畜化の考察 齋藤慈子
このように猫は、人に鳴き声を聞き分けさせることで、コミュニケーションをとり、人との暮らしを快適にしていこうとしたのです。
猫は、人と暮らすために鳴き声を変化させて、人とコミュニケーションをとるようになった。
3 人になつくようになった
京都大学で行われた研究で、トラやライオンなどほかのネコ科の動物と比べ、イエネコだけに見られるタイプの遺伝子があることが分かりました。
その遺伝子を持っている個体は、人から逃げにくい特性を持つ傾向にあることも分かったそうです。
猫は生後3週~7週までの間にどのように過ごしたかで、その後の性格が決まると言われている社会化期に、いかに色々なヒトと接するかが、大人になったときの人への順応の高さにつながります。
つまり、その遺伝子を持った猫は、人から逃げにくいため、社会化期に人の触れ合う機会が増え、人になつきやすくなるんです。
これは、猫が人と暮らし、進化してきた中で、そのタイプの遺伝子を持っていた方が生きるために有利だったことから、現在の猫にも受け継がれてきているものだと考えられます。
猫は人と暮らすために、人から逃げにくい遺伝子を受け継いで、人になついた。
4 人の表情・感情を読み取れるようになった
犬は飼い主の表情や感情を読み取ることができることは、よく知られていますよね。
実は、いつも他人に無関心のツンデレな猫でも、人の感情状態を区別できることができるんです。
飼い主にうつ傾向があると、猫が「スリスリ」と体をこすりつける行動が多くみられ、飼い主をなぐさめてくれようとします。
わたしの愛猫ちゃんも、普段は自分が要求したいことがあるときにしか、寄ってこないのですが、ある日、わたしが仕事で落ち込んで帰ってきたときは、ずっとそばにそっと寄り添っていくれました。
そして、飼い主さんが「幸せそうな表情をしているとそばにいる」ことが多いのですが、「怒っている表情のときにはあまりいない」というということも研究からわかっています。
一方、見ず知らずの人が同じように表情を変えても、猫の行動には影響がなかったそうです。これは、猫が飼い主さんの顔をしっかり認識しているということですね。
猫は人の表情から感情を読み取ることを学習して、人に寄りそって生きるようになった。
ここまで、猫が人と暮らすためどんな進化を遂げてきたのかお話してきました。おさらいしますね。
- 猫は社会性を身につけ、人のそばで生活することを選んだ。
- 猫は、鳴き声を変化させて、人とコミュニケーションをとるようになった。
- 猫は人から逃げにくい遺伝子を受け継ぎ、人になついた。
- 猫は人の表情から感情を読み取ることを学習して、人に寄りそって生きるようになった。
このことからわかるように、猫は人と一緒に暮らすためにいろいろな変化や学習をしています。猫にとって、人と暮らすことはきっと幸せであるからこそ、こんなことができたのだと思います。
猫は室内飼いでも幸せに暮らせる
もともと猫は自然で暮らしていた動物です。広い自然のなかで、自由に走り回ることができないのはかわいそう。
猫を思う飼い主さんなら、そんなことを感じてしまいますよね。でも、これはある保護猫ボランティアの方から、保護前の猫の様子を聞いたお話です。
体中ノミだらけで、餌を捕る事もできずにガリガリに痩せて、外の過酷な環境で病気や怪我をしていることも多く、どの子も幸せとは程遠い生活を強いられていたそうです。
保護をされてからは体も清潔になり、綺麗なトイレ、美味しいご飯も毎日食べる事ができます。いつ事故に遭うかわからない外の生活からは、解放されるのです。
決して外の世界で自由に暮らすことだけが、猫の幸せとは思えないですよね。
みなさんは動物福祉の「5つの自由」を知っていますか。
動物福祉…人間が動物に対して与える痛み、ストレスといった苦しみを最小限におさえ、動物の心の幸せを実現しようとすること
1960年代のイギリスで、家畜に対する動物福祉の理念として考えられ、現在では、家畜のみならず、ペットや実験動物などあらゆる人間の飼育下にある動物の福祉基準として国際的に認められています。
その自由は次の5つです。
1.飢えや渇きからの自由
- 健康を維持するために栄養的に十分な餌を与えられている。
- きれいな水をいつでも飲めるようになっている。
2.不快からの自由
- 温度、湿度、照明など、それぞれの動物にとって快適な環境を用意できていること
- 自由に身体の向きを変えることができ、自然に立つことができ、楽に横たわることができる十分なスペースがある。
- 清潔でなお静かで、気持ちよく休んだり、身を隠すことができる場所がある。
- 炎天下の日差し、雨風を防ぐことができる。
- キツすぎる首輪など苦痛のある飼育環境にいない。
3.痛み、外傷や病気からの自由
- 怪我をするような危険物のある環境にいない。
- 病気にならないようにふだんから健康管理をしている。
- 痛み、ケガあるいは病気の兆候があれば、十分な獣医医療が施される。
4.本来の行動する自由
- 各々の動物種の本来の生態や習性に従った自然な行動が行えるようにする。
- 群れや家族で生活する動物は同種の仲間と生活でき、また、単独で生活する動物は単独で生活できる。
5.恐怖や苦痛からの自由
- 精神的苦痛、過度なストレスとなる恐怖や不安を与えず、それらから守ること。
- 動物も痛みや恐怖、苦痛を感じることを理解し、もしその兆候があれば原因を特定して軽減に努めること。
これらの5つの自由を満たしてあげることが、動物の幸せにつながるということです。あなたの愛猫ちゃんはどうでしたか。
きっと、愛猫と別れてからも「この子は、生きているとき幸せだったのだろうか」と心を悩ませてる飼い主のみなさんならきっと、こんなことが習慣になっていたのではないでしょうか。
- 時にお皿をひっくり返されイライラしながらも、栄養のバランスを考えたフードと綺麗な水を用意。
- 病気やケガをしたときは、一目散に病院に走る。
- 猫がストレスをためていないか常に様子を観察しながら、生活環境について考える。
- たまに一緒に遊ぶことで猫の狩りをする野生本能を刺激し、ストレス発散と信頼関係を深める。
こんな風に、室内飼いであれ、自然とこれら「5つの自由」を満たしてあげていたのではないでしょうか。
そんな猫ちゃんはきっと「なんて安心して暮らせる場所なんだろう」と幸せに思っていたと思います。
猫が幸せな時にみせるしぐさ
愛猫ちゃんとの思い出を少し振り返ってみませんか。その思い出の中でこんなしぐさはどのくらい見られたでしょうか。
- 喉をゴロゴロ鳴らす…リラックス・幸せ
- 飼い主にスリスリしてくる…甘えさせて・大好き
- 尻尾をピンと立てる…甘えたい
- お腹を見せてくれる…信頼しているよ
- 甘噛みをする…遊んでほしい
- 目を見つめてゆっくり瞬きする…安心できる相手
- 前足でふみふみする…甘えたい
- プレゼントをくれる…大好き・ほめて
- 周りをついてくる…ずっと一緒に居たい
- 頭を突き出してくる…友好の証
きっと、思い出の中にたくさん見られたはずです。
これらすべてが、猫がリラックスしたり、「幸せ」と感じているときのサインなんです。わたしが初めて飼った愛猫の死を、後悔し悲しんでいるときに母が教えてくれました。
これを知ってわたしは、愛猫が「幸せ」をたくさん伝えてくれていたんだとわかり、安心しました。
それぞれの詳しい行動の意味などはこちらの記事にも書いてありますので読んでみてください。
猫が幸せを感じるのは、先ほどの5つの自由の生活環境を整える他にも、大好きな飼い主さんがそばにいてスキンシップをとってくれることも関係しています。
愛情を注いでくれる優しい飼い主さんに、撫でられながら過ごした時間はきっと愛猫ちゃんにとって至福のひと時だった思います。
愛猫との別れを乗り越えて
愛猫との別れは本当につらいものです。別れがつらすぎて「こんなにもつらいなら出会わなければよかった」とさえ、思ってしまうかもしれません。
でも、出会っていなければ、愛猫たちとのたくさんの楽しかった思い出も、たくさんもらった幸せもありません。
それは、猫たちもきっと同じ。あなたと出会えたからこそ幸せがいっぱいあったのです。愛猫との別れをすぐには受け入れられず、悲しい日が続くと思います。
でも愛猫たちはあなたを悲しませるために出会ったのではなく、きっと、あなたと一緒に幸せになりたくてあなたのもとに来たんですよ。
猫は、感情を読み取ることができるので、あなたがポジティブな感情で別れを受け入れてくれることを望んでいるといると思います。
ここで1つ有名な「虹の橋」という詩をご紹介しますね。
- 天国のちょっと手前に
虹の橋と呼ばれる場所があります。
この世界で誰かと特に親しかった動物は死を迎えると、虹の橋に行くのです。
そこには親しかった彼らのために用意された草地や丘があり、
動物たちは一緒に走ったり遊んだりできるのです。豊富な食べ物に水、お日様の光があり、
動物たちは暖かく心地よく過ごします。病にかかったり年老いた動物たちは皆、健康になって元気になります。
傷ついたり不自由な体になった動物たちも、また元通りになって力強くなります。
まるで、過ぎ去った日々の夢のように。
動物たちは幸せで充実していますが、一つだけ小さな不満があります。
みんな、とても特別な誰かと、残してきた誰かと会えなくて寂しいのです。
彼らは一緒に走ったり遊んだりしています。- しかし、
ある日、一匹が突然立ち止まり、遠くを見つめます。
その瞳はきらきらと輝き、
身体はしきりに震え出します。突然、彼は群れから離れ、緑の草を速く、速く飛び越えて行きます。彼はあなたを見つけたのです。
そして、ついにあなたとあなたの特別な友だちが出会うと、再会の喜びにあなたは抱き合います。
そして二度と離れることはありません。幸福のキスがあなたの顔に降り注ぎます。
あなたは両手で再び最愛の友の頭をなで回します。
そして、あなたは信頼にあふれる友の眼をもう一度覗き込みます。
その瞳は、長い間あなたの人生から失われていたものですが、心から決して消え去りはしなかったものです。
この詩は、愛すること、愛されることの素晴らしさ。そして死んでしまって姿形がなくなっても、永遠に残る大切なものがあると繰り返しています。
わたしが愛猫の死からこの詩を知ったとき、死後の世界が本当にあるのかわたしにはわかりませんが、「また再び出会うことができる」と思うだけで、悲しみが和らぎました。
まとめ
- 猫は社会性を身につけ、人のそばで生活することを選んだ。
- 猫は、鳴き声を変化させて、人とコミュニケーションをとるようになった。
- 猫は人から逃げにくい遺伝子を受け継ぎ、人になついた。
- 猫は人の表情から感情を読み取ることを学習して、人に寄りそって生きるようになった。
猫は室内飼いでも次の環境を整えてあげれば安心して幸せに暮らすことができます。
- 栄養的に十分な餌を与えられている。
- きれいな水をいつでも飲めるようになっている。
- 温度、湿度、照明など、猫にとって快適な環境を用意できている。
- 病気にならないようにふだんから健康管理をしている。
- 痛み、ケガあるいは病気の兆候があれば、十分な獣医医療が施される。
- 本来の生態や習性に従った自然な行動が行える。
- 精神的苦痛、過度なストレスとなる恐怖や不安を与えず、それから守る。
「幸せだったかな…」そんな風に考えてしまうのは、愛猫ちゃんに深い愛情があったから。そんな飼い主さんと過ごしていた猫ちゃんは、きっと「幸せ」です。
愛猫ちゃんと話すことはできませんが、たくさんの「幸せのサイン」をもらっていたと思います。
虹の橋で待っている愛猫ちゃんに、たくさんの幸せを運んできてくれて「ありがとう」とたくさん伝えたいですね。