猫の恋の季節(さかり)は温かくなる2月~8月にかけて。その間、メス猫はオス猫を求めて大きな鳴き声でアピール。外から聞こえる「ゥアオーン」という感じの野太い鳴き声は、猫を飼っていない方でも、一度は聞いたことありますよね。
「避妊、去勢手術をするとこういった鳴き声や、発情期に起こっていた様々な問題行動がなくなると思っていたのに、手術後も続いて困って悩んでいる」
実はこのお悩み、猫を飼う人の中では結構あるあるな話で、不安に感じているのはあなただけではないので安心してください。
この時、うるさいからと猫ちゃんを一方的に叱ると、攻撃されたり嫌われるだけなので要注意。叱る前になぜ避妊、去勢後もうるさいのが続いてしまうのか、理由が分かればイライラしなくなるはずです。
今回は分かりやすく「オス猫の去勢手術」に的を絞って説明しますよ。
去勢後も大きな声で鳴き、うるさくて困っている方へ、猫歴30年のわたしが飼い主さんの気持ちと、猫ちゃんの気持ちをそれぞれ代弁。去勢後もうるさく鳴く理由や対策方法を皆さんに伝授したいと思います。
去勢手術を受ける理由
そもそも皆さんは、なぜ去勢手術を受けようと思いましたか。たくさんの理由や事情があると思いますが、去勢手術を受ける理由で多いのがこちらの3つ。
- 繁殖を望んでいない
- 病気のリスクを減らす
- さかりの時期の発情行動防止
ひとつずつ見ていきましょう。
1.繁殖を望んでいない
避妊手術はオス猫の睾丸(こうがん)部分にメスを入れ、中の精巣(せいそう)を摘出します。
この手術を行うと猫の睾丸の特徴でもある「∞」の部分がなくなります。繁殖能力はなくなり、子孫を残すことができません。子供を増やす予定がないから去勢手術を受けるといったパターンです。
2.病気のリスクを減らす
去勢手術を受けると性ホルモンの影響を受けなくなり、オス猫の代表的な病気の前立腺に関する病気予防や、精巣がんのリスクの軽減効果があると言われています。
3.さかりの時期の発情行動の防止
特にオス猫はメス猫の発情期に合わせて発情します。近くにメス猫がいないと、去勢手術を受けても受けなくても、そもそも発情はしないのです。しかし窓から見える野良猫や臭い、鳴き声に反応してしまい、発情行動がスタート。
スプレー行為(壁に霧状のおしっこをかける)や、マウンティング行為(飼い主の手に乗っかり腰を押し付ける)、大きな鳴き声で鳴くなど。時には攻撃的になり、飼い主さんに爪を立てたり、噛んでしまう子もいます。
この発情行動に耐え切れなくて、去勢手術を受けるという方がとても多いのです。ですが、去勢手術を受ける時期を間違えてしまうと、去勢後もこの発情行動が続いてしまう可能性が。
なぜ発情前に去勢手術を行う必要があるのか
去勢手術の受けるタイミングは発情を迎える前、だいたい生後6か月頃がいいとされています。ですが猫の発情を迎えるタイミングは個体差があります。
わたしはいつも新しく猫ちゃんをお迎えする人に、まず初めに動物病院へ行き、健康診断も兼ねて去勢手術のことも相談することをおすすめしています。
去勢後も続く発情期の実態
去勢手術を受けると性ホルモンの影響を受けなくなるため、オス猫に起こっていた問題行動の9割は治まると言われています。
しかし一度でも発情期を経験すると、たとえ繁殖行為をしていなくても、スプレー行為やマウンティングをしたという記憶が猫の脳にインプット。この記憶が残り、外から聞こえるメス猫の鳴き声に反応し、去勢後も大きな声で鳴いたりスプレー行為が続いてしまうのです。
精巣が1つ取り残されているかも
オス猫の睾丸は初めからあるわけではなく、生後1か月頃から時間をかけ、ゆっくりあるべき場所へと降りてきます。
その際まれに、1つしか睾丸が確認できない片睾丸(かたこうがん)や、2つあるべき睾丸がどちらも確認できない陰睾(いんこう)の場合、去勢手術で2つとも精巣を切除しないと性ホルモンが分泌され続け、発情期の行動が抑えられない結果に。
わたしの知人で、去勢手術を受けた時、獣医さんに片睾丸だったと言われた方がいました。手術の際に残りの精巣を探すために近くを見てみたが見つからず、生まれつき睾丸が1つの子と言われ、精巣を1つだけ取って手術は終了。
しかし術後も発情期の行動に悩まされ、違う動物病院へ。開腹手術で残りの精巣を発見。去勢手術を2度受けることになり、費用も猫ちゃんの負担も増えてしまいましたが、その後は発情期の行動も治まったそうです。
手術の際に片睾丸や陰睾と言われた方で、発情期の行動にお困りの方は、一度獣医さんに相談することをおすすめします。
片睾丸の場合、体内に残っている1つの精巣で繁殖可能のため、油断すると他の猫ちゃんを妊娠させてしまう可能性があります。そして体内に残された精巣は常に温かく保温状態。体内は精巣に適した温度ではなく、悪性腫瘍になる可能性が高いので注意が必要です。
対策方法
まずは猫の気持ちになる
飼い主さんは問題行動が治まるようにと、去勢手術を受けることを決めます。手術をしたのになぜ大きな声で鳴くのか、うるさいのが治まらないのはなぜなんだと、イライラしませんでしたか。
ここで一度、猫の気持ちになって考えてみましょう。
ある日、突然嫌いな病院に連れてこられ、目を覚ますと麻酔の影響でぼんやりし、首にはエリザベスカラー。あげくに大事な睾丸がなくなっていた。心の準備もなしに手術を受けた猫はどんな気持ちでしょうか。
猫ちゃんの病気のリスクやストレス軽減のためとはいえ、猫ちゃんはホルモンバランスが今までとは変わり不安な気持ちがいっぱい。その不安から大きな声で鳴いてしまう場合もあるので、まずは猫ちゃんの気持ちになって寄り添ってあげましょう。
一方的に叱っても猫に嫌われるだけ。信頼関係もなくなり、触れなくなる場合もあります。
去勢後も鳴き声がうるさい、さかりに困る場合
去勢後も猫の個体差はありますが、だいたい半年から1年くらいは発情期と同じ行動が残ると言われています。徐々にホルモンバランスが整い、大きな声で鳴いたりスプレーなどの行為は見られなくなります。
しかし先にお話しした通り、1割の猫ちゃんは去勢後も発情期と同じ行動がやめられずに残ってしまう場合も。繁殖行動は生きているものすべての本能。実はやめさせるのことはとても難しいんです。
ですが、猫ちゃんの頭の中でいっぱいだった「モンモンとした気持ち」を、一時的にシフトチェンジできる簡単な方法があるんですよ。
ストレス発散がポイント
解決策は運動すること。体を動かし、疲れることで発情の問題行動を起こす元気を残さない作戦です。
実は、去勢後元気がない子も、元気がありすぎる子も、どちらもストレスが原因の場合が多いんですよ。
今回の場合はうるさくて困っているので、今読んでいるあなたの愛猫ちゃんは、ぼうちゃんのタイプの子のはず。10分でもいいので思い切り遊んであげてください。体を動かすことでストレスも発散でき、ダイエット効果も期待できますね。
他にも
- 外の様子が分からないように日中もカーテンを閉める
- 発情行動が見られたら音が入ってこないよう窓を開けずに、クーラーや扇風機を使い室温を管理する(暑い時は熱中症に注意)
- 一方的に叱らず、気持ちを落ち着かせるためにタオルでくるんで体をさする
などの方法があります。個人的には最後の「タオルにくるんで体をさする」方法がおすすめです。発情行動は興奮している場合が多いので、叱るよりも、まずは落ち着かせるのが優先。
わたしが以前飼っていたオス猫「しゅり」は、この方法で落ち着きを取り戻し、その後はこの時使ったタオルを見ただけで甘えて寄ってくることほどに。ただのタオルが、猫にモテる魔法のタオルに大変身しました。
こちらに、今回は紹介していない去勢後の「マウンティング行為」に悩んでいる方へ向けた解決策が書かれています。参考にしてみてくださいね。
逆にこちらは、去勢後に元気がなくなった猫ちゃんについて書かれています。いろんなタイプの猫ちゃんがいるので、参考までにどうぞ。
困ったら獣医さんへ相談しよう
対策方法を試したけれど、効果が全くなし。鳴き声で寝れないし、ご近所さんからクレームが来そうで困っている方は、一度獣医さんに相談してみましょう。
実は鳴いてうるさい原因は、体のどこかが痛かったり、精巣が取り切れていなかったりと、猫の体に異常がある場合もあります。
それに、実際に悩みを獣医さんに相談することで、飼い主さんの気持ちが楽になることも。一人で抱え込まないでくださいね。
まとめ
今回は去勢後も続く発情行動についてお話ししました。ポイントとして、こちらにまとめてみました。
- 発情前に去勢手術を受けないと、去勢手術後も発情行為をしてしまう可能性がある
- 片睾丸(かたこうがん)や陰睾(いんこう)の場合、2つとも精巣をとらないと発情行為が続く原因に
- 猫の気持ちになって寄り添うことが大事。一方的に叱らない
- ストレス発散が問題行動を抑えるカギ
悩んでいる飼い主さんも他の猫を飼っている方や、獣医さんに相談し、一人で抱え込まないでくださいね。ストレスフリーな猫ライフを送りましょう。