猫歴30年のわたし。私生活やSNSでもたくさんの猫友さんとお付き合いさせていただいています。
歯科衛生士をしていることもあって、最近は猫ちゃんの歯についてのお悩み相談を受けることが増えました。たとえば、「歯が折れてしまった」とか「よく見たら歯が変な方向を向いている」とか。
実は、これって猫には割とよくある話。
生まれつきや経過を見ていても問題ないものもあれば、病院で診てもらわないと猫ちゃんを苦しめることになるものもあるんです。
猫ちゃんを大切にしているからこそ、いつもと違う様子に気づくはず。せっかく気づいたのだから、適切に対処したいですよね。そのためには、異変について知っておくことが大切です。
今日は長い猫歴と歯科衛生士としての知識を生かして、猫の歯に起こる異変についてお話していきます。
猫の歯についての基礎知識
まずは猫の正常な歯の状態について確認しておきましょう。
乳歯 | 永久歯 |
---|---|
26本 | 30本 |
- 3ヵ月~6ヵ月頃の間に生え変わる
- 7歳以降は老化現象として抜けることもある
それ以外で歯が抜けてしまうのは、ほとんどの場合病気が原因です。
歯の種類
【犬歯(牙)】 上2本 + 下2本 = 4本
- 獲物や餌を突き刺したり、獲物にとどめを刺す時に使う。猫にとっての大きな武器。
- 折れた、曲がったなどのトラブルが起きやすい歯。
【門歯(切歯)】 上6本 + 下6本 = 12本
- かじったり、毛づくろいをするのに使う。
- 人間でいうところの前歯
【前臼歯】 上6本 + 下4本 = 10本
- 肉や猫草をかみ切るのに使う。
- 険しい山脈のような形をしている。
【後臼歯】 上2本 + 下2本 = 4本
- 役割は前臼歯と同じ。
- 顎の大きさの関係で、乳歯の間は生えていない。
歯の基本構造
猫の歯は人間と同じように、歯髄(しずい)・象牙質(ぞうげしつ)・エナメル質の3層からなっています。
歯髄 | 最も中心部にある。神経や血管が集まっている。 |
---|---|
象牙質 | 歯髄を取り囲んでいる。 |
エナメル質 | 歯の表面を覆っている硬い部分。再生・修復はしない。 |
次は実際に起こる異変について、歯そのものが壊れる場合と、それ以外の場合に分けてみていきましょう。
猫の歯が損傷している
少し欠けることはよくある
実は猫の歯って結構壊れやすいんです。シニア猫ちゃんの歯を見ると、4割近くに折れたり欠けた痕があるとか。
食事に関しては、猫たちは丸呑みするような食べ方がほどんど。大きい粒や硬いフードでなければ噛まずに食べられます。もちろん病院にすぐに行ければ安心ですが、難しいこともありますよね。
元気もあって、いつも通り食事もできたら慌てなくても大丈夫。いつも以上に、変わった様子がないか気にかけてあげましょう。
ただ、欠けたところから細菌が侵入することもあるので、放っておいて良いわけではないんです。行けるタイミングで病院を受診すると安心ですよ。
折れていたら痛がる様子がなくても要注意
パキっと折れてしまっていたら、かなりの確率で歯の中心にある歯髄(血管と神経の束)が出てしまっていることが多いんです。
折れた中心部に穴が空いていれば歯髄が出てしまっている証拠。人間の虫歯治療で、神経に触れて痛い思いをされた経験がある方も多いと思います。まさにあの状態なんです。
また、ばい菌が入り込んで歯髄が炎症を起こすと膿んでしまうことも。
すぐには問題がなくても、折れた歯を放っておくと、長い年月をかけて細菌が歯の根元までむしばんでいきます。中にはアゴまで細菌が入り込み、骨髄炎をおこしてしまうことだってあるんです。
- 歯髄にキャップをかぶせる(人間では銀歯をかぶせるイメージ)
- 歯髄を抜いた上で穴を埋める(虫歯悪化で神経を抜くイメージ)
- 抜歯する
1日~3日以内に対処をすれば、キャップをかぶせるだけで済む場合がほとんどです。できるだけ早く病院に行くことをおすすめします。
- 歯が欠けることはよくある。
→元気であれば慌てずに様子をみる。
- 折れてしまったら細菌が入る危険がある。
→なるべく早く病院へいく。
歯が欠けたり折れたりする具体例
それでは、どのように欠けたり折れたりしてしまうのでしょう。主な原因をご紹介します。
1.事故や喧嘩によるケガ
猫って高いところが大好きですよね。昔一緒に暮らしていた「しゅり」は、ある時2階のベランダの柵から飛び降りたことがありました。幸い怪我はなかったものの、本当に驚いたことを覚えています。
そんな元気いっぱいの猫ちゃんは、遊んでいる時にぶつけたり、高いところからの落下したり、時には喧嘩によって、歯が折れたり欠けたりすることがあります。これを破折(はせつ)と呼びます。
2.破歯細胞性吸収病巣(はしさいぼうせいきゅうしゅうびょうそう)
簡単に言うと「元々持っている自分の細胞が、自分の歯を溶かしてしまう病気」です。
歯の根元に吸収病巣というものができ、虫歯のように穴が空いてしまいます。そして、そこから折れてしまうことがあるんです。
歯や口の周りに血がついていたり、口を気にしている様子などから気づく飼い主さんもいます。原因はわかりませんが、奥歯に見られることが多いと言われています。
進行性の病気のため、完全に治すには抜歯しかありません。
他にもあります!お悩み3選
歯が伸びて長くなった?
残念ですが、ウサギやネズミの仲間と違って、生えきった猫の歯が伸びることはありません。では、なぜ伸びたと感じるのでしょうか。
それは、抜けそうだから。
抜けそうになっている原因はこれら4つが考えられます。
- 生え変わり
- 老化
- ケガ
- 歯周病
生え変わりや老化は痛がる様子がなければ、気にしなくても大丈夫です。ただ、ケガや歯周病が原因の場合は病院の受診が必要です。なぜなら、歯周病で抜けそうになっている時には、かなり進行していると考えられるから。
歯茎が赤く腫れて出血していたり、口臭が強くなっているように感じたら、歯周病の疑いがあります。
歯周病は、歯に付着している細菌が毒素を生み出すことで、歯茎や骨に炎症が起きてしまっている病気です。悪化すると体中に毒素が回って、最悪の場合命を奪いかねないとても怖いものなんですよ。
歯周病について、詳しくはこちらの記事でご紹介しています。
歯が曲がって向きがおかしい?
こちらもよく聞くお悩み。上の犬歯が下向きではなく、前を向いてしまっていたりするんです。
原因として多いのは、「不正咬合」というもの。遺伝が原因な場合と、乳歯が原因の場合があります。乳歯から永久歯に生え変わる時に抜けきらなかった歯が原因で、永久歯がまっすぐ生えてこられず曲がってしまうことがあるんです。
人間でも、乳歯が抜ける前に永久歯が生えてきてしまって、歯並びが悪くなってしまうということありますよね。
噛み合わせが悪くても、口の中を傷つけてしまうほどでなければ特に治療は行われません。
歯並びが悪くても生活に大きな影響はありませんが、歯垢や歯石が溜まりやすくなります。「不正咬合」にならないためには、「残存乳歯」に気づいた時点で病院を受診しておけば安心です。
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長くなった時と同様、抜ける寸前でも曲がって見える場合があります。
歯周病などが疑われる場合は病院で診てもらうようにしましょう。
口からはみ出ている歯は削って良いの?
わたしたち人間には、八重歯がチャームポイントっていう方、いますよね。なんと猫も同じように、生まれつきちょっと犬歯が長いという子がいるんです。
結論からいうと、削る必要はありません。
でも、もし愛猫ちゃんが歯が刺さって怪我をしたり、生活しづらそうであれば、歯を削ることを検討することも必要です。一般的に歯を削るという処置は、噛み癖がひどく、人との生活が困難な場合に行われることがあるようです。
異変が起こる前にできること
これまで、起きてしまった異変についてお話してきました。
いつも愛猫ちゃんを大切に可愛がっているからこそ、気づいた異変。中には仕方のないものもありますが、少しの心がけで防いであげられることもあります。
ケガ | 硬いおもちゃやおやつは避ける |
不正咬合 | 残存乳歯があれば早めに処置を受ける |
歯周病 | 歯磨きや歯に良いものを与える |
歯磨きはもちろんですが、最近わたしが気に入って「ゆね」に食べさせているのはこちら。
続けていくために、簡単にできることが嬉しいポイントです。
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まとめ
猫の歯の異変についてお話ししました。今は異変がなくても、今後異変に気付いたとき、慌てずに対処していきたいですよね。
【歯に起こる異変と対処法】
症状 | 対処法 |
---|---|
欠ける |
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折れる |
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曲がる |
|
出ている |
|
伸びる |
|
そしてこれらの原因となる原因はこちらでした。
【歯が折れたり欠ける主な原因】
- 事故によるケガ(犬歯に多い)
- 破歯細胞吸収病巣(奥歯に多い)
【歯が伸びたり曲がったりする原因】
- 生え変わり(3~6ヵ月頃)
- 老化(7歳以降)
- ケガ
- 歯周病
- 不正咬合
- 生まれつき
わたし達飼い主が防ぐことが出来ないことも、もちろんあるのですが、出来ることもありましたね。それがこちらでした。
【異変を未然に防ぐためにできること】
- 硬すぎるおもちゃやおやつは避けること
- 生え変わりに抜けきらない乳歯があれば、早めに病院で診てもらっておくこと
- 歯磨きやデンタルケア用品を使って、歯周病を予防すること
これでもう、猫ちゃんの歯の異変に気づいても慌てることはありませんね。定期的に歯をチェックして、健康長生き、楽しい猫生を続けていきましょう。