ある時、とても慌ててた様子の友人から電話がかかってきました。それもそのはず、友人は猫と暮らし始めたばかりで、その猫ちゃんはまだ4カ月です。いきなり歯がぬけたらびっくりしますよね。
詳しく聞いてみると、いつもガジガジ噛んでいるお気に入りのボールに、小さな歯がくっついていたそうなんです。
実は、この現象は自然な事。猫の歯は、人間と同じように乳歯から永久歯に生え変わるのですが、ちょうどそのタイミングだったのですね。わたしも「しゅり」が小さい頃に落ちている歯を見つけて驚いた経験があります。
猫の歯は人間と同様に、年齢が進むにつれて生え変わったり黄ばんだり、抜け落ちたりしていきます。どのタイミングでそれがやってくるのかをきちんと知っていないと、実は病気だった、なんてことにもなりかねません。
早く気が付いてあげられたら、悪化する前に治療を受けることもできます。だからこそ、知っているのといないのとでは大違いなんです。
今回はライフステージに沿った猫の歯の様子を詳しくお伝えします。
猫の歯について知ろう
人間と同じように、猫にも乳歯と永久歯があります。
下の写真をご覧ください。猫の歯って数えたことありますか。
乳歯
- 切歯(猫の歯の一番前にある小さい歯) 本数=上6+下6=12本
- 犬歯(切歯の隣の一番尖っている歯) 本数=上2+下2=4本
- 前臼歯(犬歯の奥の歯) 本数=上6+下4=10本 計26本
永久歯
- 後臼歯(前臼歯のさらに奥、一番奥の歯) 本数=上2+下2=4本 計30本
写真で確認したら、今度はぜひおうちの猫ちゃんの口の中も見てみてくださいね。歯の名前がわかると、これかこれか~とつい見てしまいますよ。
成長とともにあごの骨が大きくなり、歯の生える場所が広くなって数が増えます。人間と同じですね。
猫の歯の持つ力や役割についてはこちらで詳しく解説しています。
まずは口の中をチェック
愛猫ちゃんの歯は、今どのような様子ですか。簡単に口の中を見せてくれる子もいれば、なかなか見せてくれない子もいるのではないでしょうか。
「しゅり」はあまり見せてくれない子だったので、歯を数えるのには苦労しました。口を開けることは薬を飲ませるのにも必要なので、普段から慣れておくと便利です。獣医さんから教わった簡単な方法をお伝えしますね。
STEP1 | 猫の頭を覆うように手をかぶせ、親指と人差し指で頬骨の下のくぼみをつかむ
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STEP2 | 頭を軽く持ち上げながら、首がまっすぐになるように後ろに倒す
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STEP3 | 口が半開きになったら下あごを軽く押し開ける
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いかがでしょうか。
小さい頃から触っていると慣れると聞いて「ゆね」は子猫の頃から実践しています。そのおかげで、抵抗なく見せてくれるようになりました。
猫にとっては嬉しいことではないので、優しい力で慣らしていくことが大切です。強い力を加えないように気を付けましょう。
猫の歯に見られる変化
愛猫ちゃんの歯の様子がわかったところで、ライフステージに沿って変わっていく様子を見ていきましょう。
年齢の通りに歯が成長するのは永久歯が生えるまで。個体差も大きく、栄養状態や生活環境によっても変わります。年齢の数字にこだわらず年代として見てくださいね。
実は歯からわかる年代と、目や毛並みの状態を観察することで、猫のおおよその年齢がわかっちゃうんです。
愛猫ちゃんが保護猫で何歳なのか見当もつかないという方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。
子猫期(~6ヵ月頃)の歯
生後すぐ~2ヵ月 |
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3~6ヵ月 |
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3ヵ月~6ヵ月頃の間に、乳歯から永久歯に生え変わります。この時期に抜ける歯は乳歯の可能性が高いので、特に心配をする必要はありません。
猫の乳歯を見つけたらラッキー
実は、猫たちは抜けた乳歯を飲み込んでしまうことがほとんどです。そのために、見つけたらとてもラッキーだと言われています。
わたしは「しゅり」の歯を、1本だけごはんのお皿の中で見つけました。他の歯は残念ながらみつからず。今でも大切な宝物です。友人のようにおもちゃにくっついていたり、水の容器に落ちていたりすることもあるようですよ。
生え変わりの時期は注意してみると見つけられるかもしれません。幸運にも乳歯を見つけた時には、可愛いケースに入れて保存しておきたいですね。
生え変わる仕組み
猫の歯は、永久歯に乳歯が押し出されるようにして生え変わります。
人間は、乳歯が抜けてしばらく経ってから永久歯が生えてきますよね。小学校の入学式で撮った記念写真、満面の笑みだけど前歯がない、というよくある話。猫にはその期間がないんです。反対に、生えてきた永久歯と乳歯が数日間同時に生えている状態になります。
生え変わりのサインはある?
生え変わる時期がやってくると、おもちゃや人の手を噛む猫が多いと言われています。これは歯がムズムズするから。「しゅり」の歯を見つけた少し前、大切なぬいぐるみを噛まれてしまったことがありました。きっと歯がかゆかったのですね。
また、乳歯と永久歯が同時に生えているために隙間に汚れが溜まりやすく、口臭が強くなる猫もいます。
注意しておきたい2つのこと
大人の歯に生え変わっていくのを見ると、成長を感じて嬉しいですよね。でも、全て綺麗に生え変わるまでは安心できません。少し気を付けておきたいことがあるんです。
- 歯の骨折や脱臼
- 残存乳歯
乳歯や生えたばかりの永久歯は、まだ歯根が弱いために折れてしまったり脱臼してしまうことがあります。固いものやひっかかりやすいもので遊ぶときは注意が必要です。
万が一折れてしまった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。乳歯であれば永久歯に影響が出ないようにすぐに抜く処置を行ったり、永久歯であれば抜歯や修復の処置を行います。
また、猫には稀ですが、乳歯が抜けきらず残ってしまう「残存乳歯」というものがあります。放置すると歯並びが悪くなってしまったり、隣の歯との間が極端に狭くなることで汚れが溜まりやすくなり、歯周病の原因になってしまうことも。
2週間以上たっても抜けない場合は、早めに抜歯を検討する必要があるため、獣医さんに相談するようにしましょう。
抜歯は全身麻酔で行われるため、しばらく様子を見たうえで去勢や避妊手術と同時に行われることが多いです
若年期(7ヵ月~2歳)・ 壮年期(3歳~6歳)の歯
6~8ヵ月 |
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1~2歳 |
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3~6歳 |
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黄ばみが後の歯石に
この頃から気を付けたいのは歯の黄ばみ。この黄ばみの原因は、歯の間に残ってしまった食べかすです。ご飯を食べれば食べかすは残るものですが、これが溜まっていくと歯石になってしいます。
歯石は歯周病などの病気に繋がってしまうこともあるので、歯磨きをしっかりすることが大切です。
歯磨きが苦手な場合は、煮干しなどの硬いものを食べさせたり、マタタビなどの木をおもちゃの代わりに与えることでも、歯磨きに近い効果が得られますよ。
若年期から壮年期の間に歯が抜けてしまったら、歯周病など病気が原因であることがほとんどです。歯周病を放っておくと抜歯が必要になったり、細菌が体内に入り込んで内蔵を痛めることも。早めに動物病院を受診するようにしましょう。
猫の歯に見られるその他の病気
歯周病以外にも、4歳以降の猫に見られることがある破歯細胞性吸収病巣という病気や、腫瘍が原因で抜けることもあります。
【はしさいぼうせいきゅうしゅうびょうそう】
乳歯を溶かして生え変わりやすくする役割がある破歯細胞というものが、暴走をして永久歯を溶かしてしまう病気です。進行性の病気で、最終的には抜歯が必要になる病気です。
歯が抜ける以外にも、猫のお口の異変はいくつかあります。
- 歯茎の色がおかしい
- 出血している
- 食べにくそう
- 口臭がひどくなった
こういった症状がある時は、獣医さんに診てもらうことをおすすめします。
これはわたしの友人の話。ある時から愛猫ちゃんの口臭がとてもひどくなったそうです。獣医さんに診てもらったところ、判明した口臭の原因は悪性腫瘍。早く原因を知ることで、治療を受けることができます。
何事も、早期発見が大切です。
中年期(7歳~10歳)・高年期(11歳~)の歯
7~10歳 |
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11~15歳 |
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老化によっても歯が抜けることがある
まだまだ外見は若々しくても、細胞レベルでは7歳から老化が始まるそう。「しゅり」が7歳の頃はまだまだピチピチ。老化が始まっているなんてちっとも感じませんでした。
綺麗なピンク色だった歯茎も、黒いまだら模様になってきます。中には歯が抜けてしまう子も。
特に痛がっている様子がなければ、歯茎が衰えてきたために見られる自然現象なのであまり心配はいりません。シニア用のフードや、柔らかく食べやすいものに替えてあげるなどして様子をみましょう。
もちろん、この段階でも歯茎が腫れている・食欲が落ちているなどの場合は、病気の可能性も考えられます。気になる様子がある時は、早めに獣医さんに相談をしましょう。
猫の健康を守るためにできること
ここまで、ライフステージに分けて猫の歯の様子を見てきました。
それは、口の中をよく見て異変に気付くこと。
猫たちは心配をかけないように、平気な顔をしながら毎日過ごすかもしれません。生え変わりを見守ることも、歯周病をはじめとする病気に気づくことも、老化のサインに気づくことも、見てあげなければ気づくこともできないのです。
そして、もう一つできることは、歯磨きです。今歯磨きの習慣がない方は、猫ちゃんに負担をかけないように少しずつ始めてみませんか。毎日歯磨きしている猫ちゃんは、そのまま続けましょう。
わたしも「ゆね」の歯をよく観察しながら、歯磨きを続けていきます。
まとめ
- 【乳歯】生後2週を過ぎると生え始め、2ヵ月頃には26本が生え揃う。
- 【永久歯】3ヵ月~6ヵ月頃の間に生え変わり、30本になる。
- 7歳以降は老化で抜ける場合がある。
猫の年齢とライフステージによって、気を付けたいポイントや病院に行く目安が変わってきます。
子猫期(~6ヵ月) |
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若年期(7ヵ月~2歳) 壮年期(3歳~6歳) |
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中年期(7歳~10歳) 高年期(11歳~) |
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歯は、猫の体の年齢がとてもよくあらわれるものです。定期的に口の中をみることで、健康を守っていけるはず。生え変わりと老化以外で歯が抜けたら要注意です。原因が思い当たらない、なんだか猫ちゃんの仕草が気になると思ったときは、迷わず病院に行きましょう。
飼い主さんの直感程正しいものはないはずです。この記事が、猫ちゃんたちの健康維持に役立てばうれしいです。