初めて猫を飼った時、わたしはまだ5歳でした。この頃は興味があるものなんでも触りたい時期。母親からダメといわれていたのに、こっそり当時の猫「みゅう」の口をこじ開けたことがありました。
みゅうは嫌がりながらも、わたしに付き合ってくれました。猫って小さい子の面倒見るのが上手ですよね。結局その後、母親にバレて怒られましたが(笑)
その時初めて見た猫の歯。淡いクリーム色のような見た目で、小さくてトゲトゲしていたという記憶は今も覚えています。
この時歯に興味を持ったことが、今の仕事につながっているのかも、なんて思ったりします。(現在は歯科衛生士をしてます)
今回はわたしの仕事の知識を生かし、猫の歯について解説したいと思います。
猫のあごはあんなに小さいのに、人間の歯と比べると2本しか差がないって知っていましたか。気になる内容をさっそく見ていきましょう。
猫の歯のひみつ
猫の歯は、わたし達人間と同じく乳歯が生え、永久歯に生え変わります。まずは歯の本数から見ていきましょう。
歯の本数
猫の歯の本数は永久歯で30本、乳歯だと26本です。歯の本数を人間と犬で比較すると、このようになります。
猫 | 人間 | 犬 | |
乳歯 | 26本 | 20本 | 28本 |
永久歯 | 30本 | 32本 | 42本 |
猫は乳歯から永久歯になるまでに4本しか増えないのに対し、人間は12本(親知らずを含む)、犬は14本も増えます。本数の違いは、なんとあごの大きさが関係しているんですよ。
元々猫のあごは小さく、歯のスペースをとるのが困難。なので乳歯の生え変わり+新たな永久歯を上下左右に1本ずつしか配置できないのです。
ちなみにわたし達人間は、上下左右に新たな永久歯として+3本ずつで12本増えますが、あごが小さいと親知らずの生えるスペースがなくなり、永久歯が28本の方もいます。
犬は猫や人間と違い、口が前に伸びていますよね。パグなど口元が短い犬種もいますが、猫よりも奥に顎が長くて大きく口が開きます。ここにたくさんの歯を置くスペースができるので、猫や人間より本数が多いんですよ。
歯の種類
猫の歯は3つの種類があり、順番に並んでいます。
- 門歯(もんし)
- 犬歯(けんし)
- 臼歯(きゅうし)
それぞれ歯の形が違う生き物のことを異形歯性(いけいしせい)といい、人間や猫、犬などが当てはまります。
逆にすべての歯が同じ、同形歯性(どうけいしせい)のワニやイルカ、歯が全くない亀などがいます。歯ってとっても奥が深いですね。
この図の通り、上下同じ数だけ生えているのではなく、それぞれ本数が変わります。では見ていきましょう。
門歯(もんし)
とても小さくて可愛い、白ごまみたいな前歯のことを言います。別名、切歯(せっし)。猫は元々肉食なので、この小さい門歯で獲物のお肉を引きちぎる役割があります。
この歯は、上下ともに6本ずつ生えています。
現在家庭で飼われている猫は、主にキャットフードを食べるので、食事の際は門歯をあまり使ってませんが、クシの代わりとして毛づくろいにも大活躍しています。
犬歯(けんし)
門歯の横にある犬歯。大きく尖っているので一番目立ちます。人間でいうと、八重歯や糸切り歯とも言いますね。
この大きな尖った犬歯は、獲物の首を噛んだ時に脊髄(せきずい)まで到達。とどめを刺す役割があります。
犬歯も上下ともに2本ずつ生えています。
臼歯(きゅうし)
犬歯の次に並ぶのが臼歯、いわゆる奥歯です。臼歯は前臼歯と後臼歯に分かれています。
猫の臼歯は人間とは形状が違い、漢字の「山」のような形をしていて、厚みはほとんどありません。この臼歯の形状は、猫の噛み合わせと関係しています。
猫の臼歯は上下で噛み合わずに互い違いになってます。人間のように臼歯をこすり合わせて食べ物をすりつぶすのではなく、噛み切って食べているのです。ハサミをイメージするとわかりやすいですね。
猫の臼歯の噛み合わせはハサミのように上下で噛み切るので、鋏状咬合(はさみじょうこうごう)といいます。
前臼歯は上に6本、下に4本、後臼歯は上下に2本ずつ生えています。
乳歯から永久歯で増える4本が、後臼歯です。
主に硬いものを噛むときに使いますが、上の後臼歯は見つけるのが大変なくらい、本当に小さくて実は飾り程度なんだとか。下の後臼歯は前臼歯と違い、「凹」のような形をしています。
猫が本気を出して噛むと、100kgほどの力があると言われています。これに対して人間は60kgほど。さすが肉食動物。噛まれると痛いわけですね。
歯の構造
猫の歯は人間と同様に、エナメル質、象牙質(ぞうげしつ)、歯髄(しずい)の3つで構成されてます。
エナメル質 | 歯の表面部分。痛みを感じない特徴があり、一度損傷すると再生しない。色は半透明。 |
---|---|
象牙質 | エナメル質の内側。歯髄を守るように覆っている部分。色はくすんだ白。象牙の色がエナメル質から透けて見えているため歯が白く見える。 |
歯髄 | 歯の中央部分。神経や血管などが詰まっている。 |
エナメル質が溶けて象牙質まで細菌が到達すると、いわゆる虫歯になります。ですが、猫は虫歯にならないと言われています。
人間の口の中は弱酸性、猫はややアルカリ性。虫歯菌は酸性を好んで住み着くため、アルカリ性質の猫の口の中では増えることができないのです。
猫の歯はいつ生えてくるの?
生まれたての猫には歯がありません。歯がない理由ってなぜだかわかりますか。
答えは、母乳を飲むため。一番先に生えてくる門歯は生後3週目頃と言われています。それまでにたっぷりとミルクを飲んで栄養をつけるために、歯は生えてこないんですよ。
生後3週頃に門歯が出てきて、少し遅れて4週頃に犬歯が顔を出します。生後6週にもなると臼歯も生え、26本の乳歯がそろいます。
その後、生後3か月頃から徐々に永久歯に生え変わるため、乳歯が抜け落ちてきます。
猫の歯の生え変わり方は人間と違う
一般的にわたし達人間の歯が抜けた時って、グラグラして乳歯が抜けた後、抜けた穴から永久歯が出てきたと思います。
ですが猫は、乳歯が抜ける前に先に永久歯が出てきて、その永久歯に乳歯が押し出され歯が抜けます。このため一時的に前後に歯が並ぶことがあります。
この時期は歯がゆいので、なんでもかじりたくなります。遊んでいた拍子でポロっと歯が落ちることも。
猫は歯が抜けてもそのまま飲んでしまうことが多いので、見つけた時は超ラッキー。
わたしは子供の乳歯を保管するために乳歯ケースを使っていますが、今回は「ゆね」とお揃いにするため、新たにこちらのケースを購入してみました。
桐製なので高級感もあり、小さいのに使い勝手が良く、新たにケースを購入する方はぜひこちらをおすすめします。
こんな時は病院へ
猫の歯は、永久歯に押されて乳歯が抜ける仕組みだとお話ししましたが、たまに乳歯が抜けずに残ってしまうことがあります。
これを乳歯遺残(にゅうしいざん)といいます。放置していると噛み合わせが悪くなりキャットフードをうまく食べれなくなったり、歯周病の原因になってしまうことも。
猫の口を開けるのは慣れていないと難しい作業ですが、歯の健康のためにも、たまにチェックしてあげてくださいね。
まとめ
今回はわたしが歯科衛生士をしているため、少し専門的な話で難しい内容になってしまったかもしれませんね。
簡単にまとめるとこうなります。
- 猫の歯は乳歯が26本、永久歯が30本
- 門歯(もんし)、犬歯(けんし)、臼歯(きゅうし)の順に並んでいる
- 人間と同じエナメル質、象牙質(ぞうげしつ)、歯髄(しずい)の構成だけど、虫歯になりにくい
- 永久歯に押されて乳歯が抜ける
稀に乳歯が抜けずに残ってしまうと、ご飯が食べにくいなどの症状が出てくるので、歯の状態を見ることはとても大事な作業です。
猫ちゃんのお口の健康維持のためにも、普段からチェックをお願いしますね。