突然ですが、3歳以上の猫の80%が歯肉炎などの歯周病にかかっているってご存知でしたか。
猫の歯肉炎などの歯周病は、原因が多岐にわたっていて、原因を探ることも適切な治療方法を見つけることもなかなか難しいです。
しかし改善がみられず重篤化してしまうと、死に至るケースも珍しくない大変危険な病気です。
そんな多くの猫がかかる歯肉炎などの治療に、インターフェロンというお薬が使われているのはご存知でしょうか。
このお薬、猫の治療に使用されるようになったのは比較的新しく、わたしが昔飼っていた愛猫みうが歯肉炎になった時にはその存在を知りませんでした。
しかしこのインターフェロン、幅広い病気の治療に使用することができるのに副作用の少ない、わたしたち猫を愛する者にとってメリットの多いお薬なのです。
今回はこの新しいお薬「インターフェロン」について、どんな魅力があるのか、使用する際に気を付けることはないのか、全国の猫を愛する飼い主さんたち必見の情報を紹介していきますね。
自分の免疫でウイルス撃退!インターフェロンに注目!!
インターフェロンというのは、ウイルスが体に侵入した際に作られるタンパク質の1つで、ウイルスの増殖を阻止したり、効率的にウイルスを排除できるよう免疫機能を手助けする役割があります。
ちょっとややこしいですよね。
この免疫機能であるタンパク質のことをインターフェロンと言い、このインターフェロンを用いた薬なので、お薬もインターフェロンと呼ばれています。また、これらを用いた治療方法をインターフェロン療法と呼ぶこともあります。
このインターフェロン、猫以外にも人間や犬の治療としても使われているお薬なのですが、猫の治療に使われるインターフェロンは「インターキャット」という名前で流通しています。
このインターキャット、もともとは猫カリシウイルス感染症を治療するために開発された薬なのですが、現在では幅広い病気の治療薬として使用されています。
また、犬用のインターフェロンである「インターベリーα」というお薬も流通しており、こちらは犬の歯肉炎の治療薬として開発されました。猫の歯肉炎にも効果があるため、このインターベリーαが猫の歯肉炎の治療に処方されることもあります。
そうですよね、自己免疫力で勝てないから症状が悪化していくのに、インターフェロンを投与したからといってどうして治療法として成り立つか不思議ですよね。
インターフェロンがどのように治療法として効果を発揮するのか、その働きを詳しく見てみましょう。
インターフェロンの3つの働き
インターフェロンの働きは、大きく分けて3つあります。順番にお話ししていきますね。
1、抗ウイルス作用
体の中に侵入したウイルスは、猫たちの細胞の中に侵入し増殖します。
インターフェロンは、すでに感染してしまった細胞から「ウイルスに対抗する手段」として分泌され、ほかの細胞がウイルスに感染しないように先回りして阻止する役割を果しています。
直接ウイルスを殺すわけではなく、体の中にウイルスの居場所を無くすことによって体を守っているのです。
2、免疫力を増加する作用
先ほどお話ししたように、ウイルスは細胞の中に存在しているため、そのウイルスを駆除しようとすると自分の細胞もろとも攻撃することになってしまいます。
そのため正常な細胞なのか、ウイルスに侵入されてしまった細胞なのかをすぐに見つけ出し、被害が小さく済むよう白血球やリンパ球をパワーアップして効率的にウイルスの駆除ができるよう手助けをしています。
- 白血球とは、血液の中でウイルスと戦う免疫を担っている細胞群の事
- リンパ球とは白血球の一部で、ウイルスに感染した細胞を攻撃したり、ウイルスから体を防御したり、抗体を作る働きがある
3、抗腫瘍作用(抗ガン作用)
がん細胞が細胞分裂してしまうのを遅らせたり、腫瘍細胞が合成されてしまうのを抑制する働きがあります。
このように、もともと体の中にあるインターフェロンという免疫機能を、お薬によってパワーアップしてあげることでウイルスの増殖を防ぎ、効率的に排除することで病気を治すことができるのです。
インターフェロンとは、ウイルスが体内に侵入した際に作られる免疫機能の1つで3つの作用がある
- 抗ウイルス作用…ウイルスの増殖を防ぐ
- 免疫増加作用…免疫を担う白血球をパワーアップさせ、体への被害を縮小
- 抗腫瘍作用…がん細胞の進行を遅らせる
インターフェロンは歯肉炎の治療に使えるって本当?
免疫力をあげるという効果があるため、様々な病気に使用されているインターフェロン。実際にこのような病気の治療に使われています。
《インターフェロンが治療に用いられる病気》
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫ヘルペスウイルス感染症
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 慢性腎不全
- 歯肉炎
- 口内炎
インターフェロンの抗ウイルス作用を目的とした治療にも使われていますね。
免疫力の増強を目的としている場合、重症化してしまった病気には大きな効果は期待できません。免疫力を上げることに効果のある場合に、インターフェロンは使われています。
たしかにこんなにたくさんの病気に効くなんて、副作用などのデメリットが気になりますよね。
農林水産省によるインターキャットの使用には「黄疸がある猫に使用しないこと」や「アナフィラキシーショックや嘔吐などがあらわれる」などと記載されています。
参考までにこちらでチェックしてみてください。
① 禁忌
﴾1﴿ 本剤は、黄疸があるものには使用しないこと。
﴾2﴿ ワクチン等生物学的製剤や本剤に対し、過敏症の既往歴のある
ものには使用しないこと。
② 対象動物の使用制限等
﴾1﴿ 早期治療に使用すること。末期の症例や他の疾病との合併症に
使用すると、まれに症状の悪化をみることがあるので、投与は慎
重に行い、異常が認められた場合は投与を中止し、適切な処置
を行うこと。
﴾2﴿ 本剤は、妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、
妊娠猫や妊娠犬には投与しないこと。
③ 副作用
﴾1﴿ 本剤投与により、まれにアナフィラキシーショック(虚脱、尿失禁、
流涎、呼吸困難等)により死亡することがあるので、観察を十分
に行い、異常が認められた場合は投与を中止し、適切な処置を
行うこと。
﴾2﴿ 本剤投与により、まれに40℃以上の高熱や激しい嘔吐等があらわ
れることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合
は投与を中止し、適切な処理を行うこと。
﴾3﴿ 本剤投与により軽度の白血球数、血小板数及び赤血球数の減少
がみられることがある。また、ときにGPTの上昇及びヘマトクリッ
ト値の減少がみられることがある。
﴾4﴿ 本剤投与により、嘔吐がみられることがある。
﴾5﴿ 本剤投与により、投与終了後3 ~ 6時間で発熱をみることがある。
﴾6﴿ 本剤投与により、まれに興奮、流涎、ねむけ、沈うつ等がみられ
ることがある。
これは免疫力を低下させてしまうステロイドや、長期間の使用ができない抗生物質に比べると、副作用がすごく少ないんですよ。自分の免疫機能を使うからこそのインターフェロンの大きな特徴ともいえますよね。
- ステロイドとはホルモンの事で、炎症を抑えたり免疫反応を抑える作用があり、ステロイドホルモン薬として使用されます。
- 抗生物質は細菌を破壊したり、増殖を抑制するお薬の事です。
- インターフェロンは様々な病気に使用されている
- 免疫の増加のため、重症化した場合には効果が期待できない
- 黄疸の猫には使用禁止
- 副作用として、アナフィラキシーショックや吐き気がある
そうなんです、ここがすごくわかりにくいところなのです。
インターフェロンがなんで歯肉炎に効くのかは、この後、たとえ話をしながらお話ししていきますね。
歯肉炎ってどんな病気?
まず、歯肉炎とはどんな状況かというと、歯周病と呼ばれる口腔内のトラブルのうち、比較的初期症状のことをいいます。症状が悪化してしまうと歯周炎と呼ばれるようになります。
歯周病 | 歯肉炎 | 歯茎に炎症が起きてしまい、赤く腫れている状態 |
歯周炎 | 歯茎だけでなく、歯を支える骨にも炎症が広がっている状態 |
歯肉炎になってしまう原因は、歯垢や歯石に潜む細菌やその細菌の出す毒素です。しかし、この原因のみで炎症を起こすというケースは稀で、多くは何かしらの病気が隠れていることが多いです。
因果関係はまだ証明されていませんが、歯周病や口内炎などの口腔内の病気と、猫カリシウイルス感染症や慢性腎不全のような病気は併発することが多く、免疫が低下することにより、口腔内の病気になりやすくなってしまうのではないかと考えられています。
ここでインターフェロンの出番です。
どうしてインターフェロンが効くの?
では皆さん、免疫が低下して歯肉炎になってしまうなら、免疫をパワーアップさせてあげればいいんです。
歯石の除去や、食事がとれるよう痛みのコントロールをするのと一緒に、インターフェロンを投与することにより免疫力をパワーアップさせてあげる。
このことにより、副作用の多いステロイドや抗生物質の投与をすることなく、歯肉炎を治してあげることができるのです。
さきほどデメリットのところでもお伝えしましたが、免疫力を増加させる薬のため、歯肉炎より重症化している歯周炎ではあまり効果を期待することはできません。
獣医さんとよく相談のうえ、検討されてみてくださいね。
- 猫の口の中に歯肉炎などの炎症ができてしまう場合、猫カリシウイルスや慢性腎不全のような病気が潜んでいることが多い
- 病気や高齢による免疫低下により、歯肉炎や口内炎になりやすい状況になってしまう
- インターフェロンは免疫力を増加する作用があり、免疫低下による症状に効果的である
インターフェロンの効果をおさらいしてみよう!
そうなんですよね、聞きなれない言葉が多くて難しかったと思います。
なぜ歯肉炎にインターフェロンが効くのか、その仕組みをわたしなりにかみ砕いてお家に例えて解説してみますね。
まずさきほどにも記載しましたが、インターフェロンの効果はこちらです。
- ウイルスの増殖を防ぐ
- 免疫系の役割をパワーアップ
- がん細胞の進行を遅らせる
でしたよね。そしてその中でもインターフェロンの免疫力がアップする効果を利用して歯肉炎の治療が行われます。
例えば、連日の大雨でお庭に大きな水たまりができてしまったとします。
このままでは庭にある花壇の花が根腐れしてしまいます。そのため、バケツなどを使い一生懸命、溜まってしまった水を取り除きます。
しかし次の日、また雨が降ってしまい、また水たまりができてしまいます。
「今まで水たまりができることはなかったのに、どうしてだろう」と頭を抱えていると、ふと屋根の雨どいから水が漏れていることに気が付きました。
なんと水たまりができてしまう原因は、雨どいに何かが詰まってしまい、排水がうまくされていないことだったのです。
という事件があったとします(笑)
この事件の中で、歯肉炎というのはお庭に溜まってしまった水と同じ状態だと想像してみてください。
お花が根腐れしてしまうので、「溜まってしまった水を取り除かないといけない」という問題のほかにも、雨どいの修理もしなければいけないという根本的な問題もありますよね。
これと同じように歯肉炎は、単純に歯石の細菌による炎症というだけでなく、そのほかに根本的な原因(病気など)があり、それが原因で免疫力が落ちてしまい、自分の免疫力で解決していた細菌からの攻撃に負けてしまうことにより発症てしまうことが多いのです。
そのため、歯肉炎の治療をするのと並行して、原因となる病気の治療をしなれば完治することはできません。
先ほどお話しした、猫カリシウイルス感染症や慢性腎不全などの病気、あるいは高齢により免疫力が低下してしまっている状態が、雨どいに何かが詰まってしまい排水がうまく機能していない状況と同じだと考えてみてください。
くどいようですが、インターフェロンは免疫力を増加する効果があります。
この事件の中で例えると、雨を排出する役割を持っている雨どいをパワーアップさせて一時的に大きくし、排水をスムーズにする魔法をかけてくれる効果を発揮するイメージです。
雨どい自体が大きくなれば、雨水が詰まるトラブルもなくなるし、水が漏れてしまってお庭が水たまりになってしまうこともなくなりますよね。
つまり免疫低下による歯肉炎(お庭の水たまり)は、インターフェロンで免疫を増加(雨どいをパワーアップ)してあげることにより根本的に治療することができるのです。
ただこのインターフェロンによる雨どいのパワーアップは、あくまで薬による効果がある間だけのことでなので注意してください。
まとめ
このように、歯肉炎になってしまうには単純に歯石が溜まってしまうことだけでなく、病気による免疫力の低下があると考えられます。
そこで、自分の免疫力を増加してくれるインターフェロンはとても有効的ですよね。
《インターフェロンの歯肉炎への効果》
インターフェロンは細胞内へのウイルスの侵入を防ぐ自己免疫力を強化や、白血球・リンパ球の手助けをすることができる。
そのため、病気や高齢による免疫力の低下からくる歯肉炎に有効である。
実際にインターフェロンが治療に用いられる病気はこちらでした。
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫ヘルペスウイルス感染症
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 慢性腎不全
- 歯肉炎
- 口内炎
- 歯肉炎よりも重篤化している歯肉炎では効果が得られにくい
- 黄疸のある猫には使用できない
- 副作用としてアナフィラキシーショックや嘔吐をしてしまうことがある
一番最初にもお話ししましたが、3歳以上の猫の80%が歯周病にかかっています。
食事を嫌がるようになったりお口から異臭がするなど、猫ちゃんの異変に気が付いたら、早めに受診して早く治してあげられるうちに治療してあげましょう。
今回はインターフェロンにスポットライトを当ててお話ししましたが、歯肉炎の症状や治療法についてはこちらの記事で詳しくご紹介していますので、のぞいてみてくださいね。
今後、もしも愛猫ちゃんの歯に異変を感じ、診察を受ける際の参考にしてみてください。