「誰か猫を飼いたい人、知らないかしら」
先日、友人から突然こんな相談がやってきました。
わたしはゆねがいますし、知っている人の中で猫を飼いたいと言っていた人もいません。
友人は途方に暮れていたので、飼い主探しに協力することに。
すぐに見つかると思っていたのですが、最後の1人がなかなか見つからず、本当に焦りました。
結局、友人の猫が子猫を出産した様子をSNSで紹介して、興味を持って連絡をくれた方に無事に譲ることができました。
後から話を聞くと、こんな答えが。
友人のように、家の中で飼っているから大丈夫と思いきや、知らないうちに外に出てしまっていたということは珍しいことではありません。
そしてそのまま出産し、子猫を飼いきれなくなって捨ててしまったり、保健所へ連れていくという話もよく耳にします。
今回はそんなトラブルを回避するためにも、猫の妊娠、出産、そして避妊についてもお話します。
猫の妊娠の仕組み
猫を飼うのにあたり、避妊手術や去勢手術について検討する飼い主さんがほとんどだと思います。
しかし、手術をする時期が分からず後回しにした結果、冒頭の友人のように、気が付けば妊娠して大分時間が経ってから気づくというパターンもよくあります。
避妊がなぜ必要なのかをきちんと理解するために、まずは猫の妊娠について基本的なところを理解していきましょう。
猫が妊娠するようになる時期
メス猫は、生後5ヶ月頃~1歳前後までに最初の発情期を迎え、妊娠が可能な状態になります。
1回の発情は10~14日ほど続き、発情中に交尾をしなければ20~35日ほどの周期で発情期を繰り返します。
発情期中に交尾して妊娠した場合、約2か月の妊娠期間を経て出産します。
さらに、猫は一度に5頭前後の子猫を産むため、いつの間にかどんどん子猫が増えてしまい、飼えなくなってしまうケースが多々あります。
飼いきれない猫が捨てられてしまったり、保健所での殺処分の対象になるということも近年大きな問題になっています。
妊娠を望まない場合は、避妊手術を受けるようにしましょう。
猫の妊娠確率はとても高い
猫は交尾の刺激によって排卵する「交尾排卵動物」に分類されます。
ほとんどの哺乳類は「自然排卵動物」に分類され、排卵する前後のわずか数日のうちに交尾があれば受精(妊娠)する仕組みになっています。
これに対し、猫をはじめとした交尾排卵動物は、精子を迎えるように排卵が起こるため、交尾をすればほぼ確実に妊娠し、その確率はなんと90%以上と言われています。
発情期の猫はオス、メス問わず要注意
猫の発情期は季節(特に日照時間)による影響を受けています。
日本では、日照時間の長い2月~4月、もしくは暖かい6月~9月の間に発情期を迎える猫が多いようです。
ただし、家猫の場合は人工照明の光の影響も受けるので、季節と関係なく発情期が来てしまいます。
メスの発情期の特徴
猫には、犬のように出血がないため、発情しているかどうかは分かりにくいです。
しかし、メスが発情期に入った場合は、オスを惹きつけるために行動面で様々な変化が見られます。
以下のような行動が見られた時は、発情期に入っている可能性がとても高いです。
<メスの発情期の特徴>
- 大きな鳴き声で頻繁に鳴く
- おしりを高く上げる様子がみられる
- いろいろなものに体を擦り付ける
- トイレ以外の場所でもおしっこをする(スプレー行為)
- ゴロゴロと床に転げる(ローリング行動)
- 食欲に大きな変化が出る
オスの発情期の特徴
オスは6~10カ月頃に本格的な性成熟を迎えます。
ただし、オスは発情したメスのフェロモンに誘発されて発情するため、時期やサイクルが決まっているわけではありません。
猫の妊娠の兆候と経過
家の外に出歩く猫の飼い主さんにとって、ここは気になるところですね。
猫の妊娠率はとても高いため、飼い主さんが見ていないところでオスと交尾をしてしまい、知らない間に妊娠していたという話も珍しくありません。
見た目で猫が妊娠したと気づくのは、妊娠して20日頃からと言われています。
身体面での兆候
人間でも、妊娠した時は身体に大きな変化が現れますが、これは猫も同じ。
お腹が大きくなる以外にも、妊娠経過時間が進むにつれて、いろんな変化が出てきます。
ここでは誰でも簡単に分かるポイントについて紹介します。
乳首がピンク色になり、大きくなる
妊娠して20日ほど経つと、乳首がピンク色になり、大きく膨らんできます。
時間が経つと乳首をつまんだ時に乳汁(おちち)が出ることもあります。
しかし、乳首の膨らみは発情期の特徴の一つでもあり、乳首が大きくなってきたからといって、妊娠したとは言い切れないので、他の特徴もしっかり確認しましょう。
お腹が大きくなる
妊娠して20~30日頃になるとお腹が大きくなり、見た目に分かるようになります。
横から見ると背骨がわずかに湾曲して、お腹が丸く膨らんで見えます。
体重が増える
お腹の中の子猫が成長するにつれて、母猫は体重が増えるのは自然のこと。
妊娠30~45日頃になると、あまり動かなくなり、食欲も増えることもあり、さらに体重が増えます。
行動面での兆候
わたしが妊娠していた時、そこまでひどくなかったとは言え、つわりはありました。
食の好みが変わったり、日中夜間問わず強烈な眠気に襲われ、仕事中に意識が飛びそうになることもあって大変でした。
妊娠した時に身体の中で変化が起こると、それが行動面に現れるというのはよくある話です。
ここからは猫が妊娠した場合の行動の変化についても、紹介します。
食欲の変化
妊娠して20日頃になると、食欲の低下が約1週間ほど続きます。人間のつわりに近いような感じですね。
その後、お腹が大きくなる妊娠30~40日頃には食欲が増え、エサをたくさん食べるようになります。
猫は人間のように、つわりになって嘔吐することはほとんどないと言われています。
もし、食欲が減り、嘔吐してるようであれば病気の可能性があるので、早めに動物病院に受診しましょう。
攻撃的になる or 飼い主を呼ぶ
妊娠して40日を過ぎたころから、そわそわして気が立ち、攻撃的になる猫は多いと言われています。
一方、飼い主に向かって鳴いて呼び、そばにいてほしいとアピールする猫もいるようです。
じっとして過ごす時間が増える
出産が近づいてくると、餌を食べたりトイレに行ったりする以外は、座ったり寝転がったりしてじっとして過ごす時間が増えます。
分娩する場所を探してうろうろすることもありますが、母猫にとって心地よい場所を見つけると、ずっと動かずに過ごすようになります。
食事や排泄をしなくなり、乳房や陰部をしきりにグルーミングするようになれば、出産間近です。
妊娠中の注意点
愛猫が妊娠したかもしれないと思ったときは、まずは動物病院に診てもらいましょう。
妊娠20日頃になれば、触診や超音波検査で妊娠しているかどうかが分かります。
妊娠した猫に対しては予防接種やノミ・ダニ除けの薬が使えなかったり、栄養面での管理に注意が必要になります。
もし、自宅で出産を希望する場合は、獣医さんに相談し、緊急時には対応してもらえるようにしましょう。
偽妊娠について
非常に稀ではありますが、排卵しても着床しなかった場合に「偽妊娠」という状態になることがあります。
偽妊娠になると、本当は妊娠していないのに体内で妊娠した時と同じホルモンが働いてしまい、妊娠した時と同じようにお腹が大きくなったり、乳腺が発達して張ってしまいます。
また、出産のための巣作りを始めたり、動くのを嫌がってじっとするようになるなど、普段の行動面での変化も現れます。
動物病院に相談するかどうかはきっと悩みどころ。
偽妊娠は病気ではなく、大体の場合は、そのまま様子を見ていると、1か月ほどで再び発情期がやってきて、症状が無くなります。
しかし中には、乳腺が張りすぎて熱を持ってしまったり、食欲が落ちるなどの体調面での影響も出てきます。
また、おもちゃやぬいぐるみを子猫のように思ってしまい、飼い主に対して攻撃的な態度を取る場合もあります。
本当に妊娠しているのか、それとも偽妊娠なのかについては、動物病院で診てもらわなければ判断ができません。
もし妊娠していれば、妊娠20日程度で超音波や触診などで診断が可能になります。
気になる様子がある場合は、早めに動物病院で相談してみましょう。
妊娠した猫の対応について
愛猫が出産することを希望する場合、飼い主がしなければならないこと、準備することは何があるのかというのも、気になるポイント。
なんと、猫は誰の助けも借りず、出産する巣作りから出産までほとんど自分自身でできるのです。
ここで、必要以上に手を出してしまうと、母猫も警戒しますし、出産に集中できなくなってしまいます。時々手助けする程度で十分と言われています。
しかし、不測の事態が起きる可能性はあるので、いざという時にすぐに診てもらえるように、かかりつけの獣医さんとしっかり連携を取っておくことが大切です。
そのほか、妊娠後期(40日頃)には食欲旺盛になり、普段よりもたくさんの栄養が必要になります。普段のフードの量を増やしたり、妊娠猫用もしくは子猫用フードに切り替える等して、しっかり栄養が取れるようにしましょう。
また、出産のための場所の確保も必要です。
段ボール箱に清潔なタオルを敷いて産箱を用意し、猫がその場所を気に入ればバッチリです。
想定外の妊娠を防ぐ手段「避妊手術」
そのように考え、1度は愛猫の出産について考えたことがある飼い主さんも多いと思います。
しかし、毎年たくさんの猫が飼いきれずに捨てられてしまい、その半分以上が殺処分をされてしまっているという現実があります。
環境省による令和元年度の統計では、27,108頭の猫が殺処分されたとのことです。(詳細は環境省のHPから見ることができます)
この問題をこれ以上悪化させないために、一般的には特別な理由が無い限りは避妊手術をすることが推奨されています。
ここからは避妊手術について、もう少しわかりやすく説明します。
避妊手術とは
避妊手術は、子宮と卵巣(動物病院によっては卵巣のみ)を摘出する手術のことです。
手術は全身麻酔でお腹を開けて行う開腹手術によって行われますが、最近では傷口の小さい腹腔鏡手術を行う動物病院もあるようです。
メスの場合、大体の猫は生後5ヶ月~1年の間に初めての発情がくると言われていますが、もちろん個体差もあります。
一般的な目安は生後6~8ヶ月頃で、手術は初めての発情が来る前が良いとされています。
お家の猫ちゃんがいつ頃であれば避妊手術ができるのか気になるようでしたら、動物病院で健診も兼ねて相談することをお勧めします。
メリットとデメリットについて
わたしも小さい時、みゅうやしゅりが手術するときはそう思っていました。人間でもそうですが、手術となるといろいろと心配事も多くなりますよね。
ここで簡単に、避妊手術におけるメリットとデメリットとまとめてみました。
<メリット>
- 予定外の妊娠の回避
- 発情期のストレス解消
- 病気の予防(生殖器疾患、乳腺腫瘍など)
<デメリット>
- 太りやすくなる
- 手術・麻酔のリスクがある
メリット その①:予定外の妊娠の回避
猫が家の中と外の出入りを自由にしているお宅は多いのではないでしょうか。
当然ですが、外に出ている猫については知らないうちにオスと交尾をしている可能性は高いといえるでしょう。
また、家の中で飼っている猫ちゃんでも、ふとした拍子に家の中によその猫が入ってきてしまったり、愛猫が脱走してしまうという不測の事態もあるかもしれません。
万が一、そういった場合になっても確実に妊娠を防ぐ方法は避妊手術であると言えます。
メリット その②:発情期のストレス解消
メス猫は、発情期を迎えると高い声で鳴いたり、いろんなものに体をこすりつけて甘えるような行動をとったり、興奮して攻撃的になったり、食欲が落ちたりします。
これらはすべて、オスを惹きつけて確実に子孫を残すための本能による行動です。
こんな声が聞こえてきそうです。冒頭の友人の話を繰り返し聞いてる気分になってきました。
こんなわたしも、しゅりを飼っていたときの獣医さんの話を聞いて考えが変わりました。
その獣医さんによると、猫は発情期の時に交尾ができないことでストレスをためてしまい、その結果体調を崩してしまう子も多いそうです。
避妊手術をすることで、発情そのものが起きなくなるので発情によるストレスを無くすことができますし、体調も安定するようになります。
メリット その③:病気の予防
避妊手術では卵巣・子宮を摘出することになります。
そのため、避妊手術をした猫は卵巣や子宮の病気を予防することに繋がります。
ここでいう、卵巣や子宮の病気には卵胞嚢腫(らんぽうのうしゅ)や子宮蓄膿症などがあたります。
そのほかにも、性ホルモンの影響を受けなくなるので乳腺腫瘍の発生リスクも抑えられます。
デメリット その①:太りやすくなる
さきほどの病気の話と少し関係してくるのですが、卵巣や子宮を摘出することでホルモンバランスが崩れやすくなり、代謝が落ちて太りやすくなります。
手術前後で同じ量のエサをあげ続けて明らかに太ってきた時は、エサの量を見直す等の工夫が必要になります。
デメリット その②:手術・麻酔のリスクがある
手術や麻酔をするということは、猫の身体に少なからず負担がかかることになります。
もし手術を受ける場合は、獣医さんの注意事項や説明をしっかりと聞き、きちんと理解をした上で行ってもらうようにしましょう。
手術内容・費用
大切な愛猫のためとは言え、気になるのはお金の問題。
費用は動物病院によって異なりますが、大体15,000~30,000円が主流のようです。
そのほかにも術前検査や入院費などで別途料金が必要になるので、事前の確認はしっかりと行いましょう。
<助成金について>
地域によっては、避妊手術(去勢も含む)を受ける際に助成金を受けることができます。金額は助成金を受け取る市町村によって異なりますが、5,000~8,000円ほどのようです。
しかし、それぞれの市町村によって条件が付いていることが多く、ほとんどの場合、手続きが必要になります。
気になる方はお住いの地域の情報を確認しましょう。
まとめ
では、最後に今回の記事の振り返りとまとめをします。
- メス猫は生後5か月をすぎると発情が始まる可能性があり、同時に妊娠の可能性が出てくる。
- 猫は「交尾排卵動物」のため、妊娠する確率はとても高い。
- 猫の発情期は春先と秋に多いが、人工の光の影響を受ける家猫は1年中発情する可能性がある。
- 妊娠したら、身体面・行動面で変化が現れる。
- 排卵しても着床しなかった場合、偽妊娠と呼ばれる状態になり、妊娠したときと同じ症状が現れることがある。
<身体面>
- 乳首がピンク色になり、大きくなる
- お腹が大きくなる
- 体重が増える
<行動面>
- 食欲が変化する
- 攻撃的になる、もしくは飼い主に甘えるような行動をする
- じっとして過ごす時間が増える
愛猫はとても可愛いですし、その子どもはさらに可愛いだろうと思うのはどの飼い主さんでも同じだと思います。
しかし、猫は一度にたくさんの子猫を出産することがほとんどです。
飼いきれなくなった猫を捨てたり、保健所に連れていくということは、結果的に子猫の命を奪うということに繋がります。
計画的な妊娠であれば問題はありませんが、今回の記事では予期せぬ妊娠を防ぐために、避妊手術についてもご紹介しました。
もしも、出産する場合は新しく家族として迎え入れるか、里親を探すなど、生まれてくる子猫が幸せになれるようにしっかりと準備をするようにしましょう。
最近の愛猫の様子がおかしい、お腹が大きくなってきて気になるなど、少しでも疑問に思うことがあれば、まずは動物病院に行って相談してみてくださいね。